VST ビストラ|474GW待ちの行列と94%のヘッジ
ビストラ(VST)の2026年Q2は調整後EBITDAが30%超伸びた一方、株価は1週間で約11%下げた。474GWのERCOT接続待ちと94%まで売り切った2027年のヘッジが、AI電力需要と損益の間に時間差を作っている。
電気の値段は、発電した瞬間ではなく、売った日に決まる。ビストラの2027年は、すでに94%が売れている。
テキサスの送電網には、474ギガワット分の接続申込みが並んでいる。州の記録的なピーク需要の5倍を超える量で、そのおよそ9割がデータセンターだ。8月3日、アボット知事はこの行列を一度止めた。公益事業委員会とERCOTに対し、待機中のデータセンター案件をすべて検証・監査するまで新規の接続を進めるなと指示したのである。ERCOTは同日、8月7日期限だった「バッチゼロ」の大規模需要家分類通知を出さないと市場通知を発し、8月20日の委員会会合で例外承認を求める構えに転じた。
AI相場のなかで、電力は最も分かりやすい物語だった。計算需要は電気を食う。電気は足りない。だから発電会社が勝つ——その三段論法の3番目に、州知事が付箋を貼った格好になる。
474GWの行列は、どこまで本物か
接続申込みは注文ではない。同じ案件が複数の場所に申し込むことも、土地を押さえただけで電源を確保しに来ることもある。474GWという数字の異様さは、需要の強さと同じくらい、待ち行列に幽霊が混じっていることを示している。知事の監査は、その幽霊を数える作業だと言い換えられる。
投資家として厄介なのは、幽霊が何割かを外部から数える手段がないことだ。ERCOTの2025年12月時点の見通しでは、2030年夏までに契約済みで到来する新規需要は19.5GW、送電会社役員の宣誓による追加分が28.2GW。474GWとの落差が、そのまま不確実性の幅になる。
2027年の94%を、もう売ってしまっている
ビストラは8月3日時点で、2026年の発電量のほぼ100%、2027年の約94%、2028年の約72%をヘッジ済みだと開示している。先に価格を固定して売ってあるということだ。
これは弱点でも強みでもある。テキサスの電力価格が跳ねても、来年の分はもう売れているので取り込めない。逆に、価格が崩れても来年の収益は守られる。発電会社の損益計算書は、発電所の性能ではなく、いつ・いくらで売ったかという営業判断の履歴で決まる。
Q2の調整後EBITDAが17.67億ドルへ30%超伸びた最大の要因のひとつが「有利なヘッジ」だったという説明は、その裏返しでもある。
AI需要が電力価格を押し上げるという物語が正しかったとしても、ビストラの損益にそれが届くのは、ヘッジ比率が薄くなる2028年以降ということになる。物語と決算の間には、二年分の時差がある。
好決算の週に、なぜ株価は下げたのか
8月7日発表のQ2は、継続事業ベースの調整後EBITDAが17.67億ドル(前年同期13.49億ドル)、6か月累計で32.61億ドル。夏のピーク時の設備稼働可能率は97%超。2026年通期ガイダンス(調整後EBITDA 68〜76億ドル、成長投資前FCF 39.25〜47.25億ドル)は据え置かれた。
一方でGAAPの数字は反対を向いている。売上は40.2億ドルで前年比5.5%減、希薄化後EPSは0.76ドル(前年0.81ドル)。将来年度に決済されるヘッジの未実現損4.72億ドルが乗ったためで、要するに「先に売った価格」より足元の市場価格が上がると、会計上は損が出る。実態は悪くない。だが決算の見た目は割れる。
それでも株価は8月14日終値近辺で148ドル前後、時価総額はおよそ490億ドル。直近1週間で約11%下げている(8月14日時点)。市場が反応したのは決算そのものではなく、ERCOTのフォワードカーブの軟化と、あの監査だ。会社側も2027年の調整後EBITDA機会レンジ74〜78億ドルについて、ERCOTの逆風でレンジ下限寄りに傾いていると認めている。しかもこのレンジは2025年10月31日時点の市場カーブに基づく参考値で、ガイダンスではない。
電力を売る側から、データセンターに出資する側へ
もうひとつ、6月に起きたことを見ておきたい。KKR、クウェート投資庁、NVIDIAとともに立ち上げたHelix Digital Infrastructureである。100億ドル超の長期資本を集め、データセンター開発・電源・送電・光ファイバーを一つの窓口で束ねる会社で、元AWS CEOのアダム・セリプスキーが率いる。ビストラはここに最大10億ドルを出資し、優先電力供給者の座を取った。
電気を売る会社が、電気を買う側の器に出資する。ヘッジで上限を縛った収益の外側に、成長を取りに行く動きだ。理屈は通っている。ただし、これは通行料を取る位置から一歩降りて、自ら資本を投じる側に混ざる行為でもある。5.5GWのガス火力を加えるCogentrix買収はFERCの承認を得たが、ガイダンスにはまだ含まれていない。買収と出資が同時に走っている会社の数字は、しばらく読みにくい。
この会社は通行料を取る側なのか
私がポートフォリオを組むときの最初の質問はいつも同じだ。AIで誰が勝っても、この会社は料金所を通る人から料金を取れるのか。
発電は、その意味では危うい位置にある。電子には銘柄がない。ビストラの電気とライバルの電気を、データセンターは区別しない。価格決定力は自社の技術ではなく、地域の需給と規制と、そして自分が何年前にどんな価格で売ったかに握られている。テキサスは規制上の建て付けとしても、知事の一通の書簡で行列が止まる場所だと今回はっきりした。44GWの発電設備(ガス27GW、原子力6.5GW、石炭8.7GW、太陽光・蓄電1.3GW)は立派な資産だが、資産の大きさと料金の決定権は別のものだ。
だからこの枠については、私は現状コンステレーション(CEG)を持っている。原子力の長期契約という、価格を先に固定するにしても「相手の名前が分かっている」固定の仕方を評価したからだ。ただし、今回の監査騒動が突きつけた問いは、CEGにも等しく刺さる。データセンター需要が剥落して電力価格が構造的に下がることは、この銘柄について事前に決めた売却条件のひとつでもある。474GWの行列に幽霊が何割いるのかという問いは、他人事ではない。
正直に言えば、ビストラとCEGのどちらが電力枠として正しいのか、私はまだ確信を持っていない。次に見る数字は決まっている。11月5日の決算での2028年ヘッジ比率と、8月20日の委員会会合以降にERCOTの行列がどう整理されるか。買い替えの判断はそこまでしない。株価が11%下げたことは、私にとって理由にならない。
電力株を買うという行為は、電気を買うことではない。誰かが数年前に結んだ契約の束を、後から買うことである。