INTU イントゥイット2026年Q4決算|EPS急減は錯覚か
イントゥイットの2026年7月期決算は増収増益だったが、来期の一株利益ガイダンスが減額に見えた。原因は非GAAPの定義変更で、足し戻せば約18%増益。真の論点は申告件数の減少と9〜10%への減速にある。
来期の一株利益が今期を下回る──決算資料の表はそう読める。だが下がっていたのは利益ではなく、物差しのほうだった。
8月25日の引け後、イントゥイットが2026年7月期の通期決算を出した。第4四半期の売上高は43億5,400万ドルで前年同期比14%増、調整後一株利益は4.03ドル。どちらも市場予想を上回っている。それでも株価は時間外で6.9%下げ、332.79ドルをつけた(Investing.com、8月25日)。売られた理由は決算そのものではなく、その後ろに付いていた来期の見通しだった。
22.88ドルは本当に減益なのか
会社が示した2027年7月期の調整後一株利益は22.88〜23.12ドル。今期の実績は24.27ドルだから、額面では減益に見える。
そうではない。同じ資料の中で、イントゥイットは2026年8月1日以降、株式報酬費用を調整後利益から除外するのをやめると告知している。今期の株式報酬は20億5,600万ドル、一株あたり7.42ドル分にあたる。来期の22.88ドルには、この費用が一株5.81ドル分そのまま乗っている。足し戻せば28.7ドル前後──前の物差しで測った今期の24.27ドルに対して、18%ほどの増益だ。会社が同時に示した調整後営業利益の伸び17〜18%とも整合する。
つまり「一株利益が予想を大きく下回った」という見出しの相当部分は、新しい定義の数字を古い定義の予想と並べたことで生まれている。
数字が減ったのではない。数え方が変わった。
申告3,900万件が2%減り、売上は7%伸びた
本当の論点は利益ではなく、その手前にある。
TurboTaxの米国連邦申告件数は通期で3,900万件、前年比2%減だった。オンライン版が3,490万件で2%減、デスクトップ版は410万件で7%減。ところがTurboTaxの売上は7%増えて53億ドルになっている。件数が減って売上が伸びたなら、差を埋めたのは単価しかない。
会社はその中身も説明している。専門家が付くTurboTax Liveの売上が37%伸び、TurboTax売上の53%を占めるまでになった。自分で申告する層から、人に任せる層へ客が移っている。5月の第3四半期決算では、経営陣が年収5万ドル未満の価格に敏感な自力申告層について「価格で負けた」と認めてもいる。
料金所は値上げできる。だが通る車が減り続けるなら、値上げがいつまで効くかという問題は先送りされているだけだ。来期のTurboTax売上見通しは2〜3%増。この数字自体が、会社の見立てを表している。
Mailchimpを別セグメントに切り出す意味
もう一つ、地味だが効く変更がある。2026年8月1日からMailchimpをGlobal Business Solutionsから切り離し、2027年7月期には独立した報告セグメントにする。
そして来期のMailchimp売上見通しは12億5,600万〜12億6,600万ドル、マイナス1%〜0%。通期のGlobal Business Solutionsは16%増だったが、Mailchimpを除けば18%増。オンライン領域は19%増が、除けば23%増になる。これまで強い事業に混ぜられて見えにくかった弱い事業が、来期からは一行で表に出る。
株式報酬の件と合わせると、この会社は同じ四半期に、自社の数字を良く見せる余地を二つ自分から手放したことになる。ガイダンスを下げる決算でそれをやるのは、あまり見ない順序である。なお2026年に入り、生成AIによる競争圧力やMailchimpの実態をめぐる開示について、投資家による証券集団訴訟が提起されている(主導原告の申立期限は9月8日)。開示の姿勢が問われている最中の変更でもある。
来期9〜10%成長は、どこが引っ張るのか
来期の売上見通しは232億7,900万〜235億1,200万ドルで9〜10%増。今期の14%増からの減速であり、二桁を割る。中身は割れている(いずれも会社発表、8月25日)。
- Global Business Solutions: 13〜14%増
- Credit Karma: 11〜13%増
- Consumer: 4〜6%増
- TurboTax: 2〜3%増
- ProTax: 2%増
- Mailchimp: −1〜0%
一方でGAAP営業利益は26〜27%増、GAAP一株利益は20.12〜20.36ドルで22〜24%増を見込む。5月に発表した17%の人員削減と、第4四半期に計上した2億9,300万ドルのリストラ費用が効いてくる形だ。成長は鈍り、利益率は上がる。
この組み合わせの読み方で評価が分かれる。小規模事業者の会計と決済を握る部分は依然として強く、QuickBooks Onlineの会計売上は通期23%増だ。客が増えるほど乗り換えが難しくなる場所である。対して確定申告とメールマーケティングは、AIが最も早く代替しにいく作業そのものを売っている。同じ会社の中に、通行料を取る側と払う側が同居している。
それでも12銘柄の枠には入らない
株価は8月25日の時間外で332.79ドル。年初来では決算前の時点ですでに43%下げており、52週レンジは252.84〜705.08ドルだ(Investing.com、8月25日)。来期のGAAP一株利益の中央値20.24ドルで測れば16倍台、新しい定義の調整後利益23.00ドルなら14倍台になる。9〜10%成長で26%の営業増益を見込む会社の値段として、高いとは言いにくい。
それでも今の12銘柄には入れない。理由は「AIに壊される会社だから」ではない。QuickBooksと決済の部分は、通行料を取る側に十分近いと思っている。問題は、その部分だけを買えないことだ。今期売上86億ドル、全体の40%を占める消費者向け事業とMailchimpが、同じ株券に付いてくる。
そしてもう一つ。通行料を取る側かどうかを確かめる肝心の数字が、まだ開示されていない。QuickBooks Onlineの23%成長を、会社は「実効価格の上昇、顧客数の増加、ミックス変化」と並べて説明するだけで、どれがいくら効いたかを分けていない。TurboTaxで起きたこと──件数が減り、単価で埋める──がQuickBooksでも始まっているのかどうかは、この開示では判定できない。
だから見る対象は決めてある。TurboTaxの米国申告件数が前年比プラスに戻るか。Mailchimpを切り離した後のGlobal Business Solutionsが15%以上の成長を保つか。QuickBooksの成長が価格と顧客数に分解して示されるか。三つのうち二つが揃えば判断を変える。揃わないうちは、株価がさらに半分になっても変えない。次に材料が出るのは9月17日の投資家説明会と、11月の第1四半期決算だ。
「申告件数は減った。それでも売上は伸びた」──この一文が来年も書けるかどうかに、この会社の値段はかかっている。