HACK TO THE FUTURE

実験記録12銘柄記事13本配分は2026-08-11時点

NEE

通行料は取れる。ただし料金表を書くのは自分ではない

8月6日、バージニア州のアビゲイル・スパンバーガー知事が、州法人委員会(SCC)で審理中の合併案件に、正式な当事者として参加すると表明した。バージニア州知事がSCCの審理に介入するのは前例がない――知事自身がそう認めている。案件は、フロリダのNextEra Energyによる、バージニア最大の電力会社Dominion Energyの買収。670億ドル、成立すれば米国の電力会社としては史上最大の合併になる。

私はこのニュースを、電力株の材料としてではなく、自分の銘柄選びの手続きを映す鏡として読んだ。

落とした記憶がない、という落とし方

このポートフォリオの電力枠には、GE VernovaとConstellation Energyが入っている。AIの計算需要が電力に跳ね返るなら、その通り道に立つ会社を持っておく、という考え方だ。ではその枠を決めるとき、米国最大の規制電力会社であるNextEraを検討したか。していない。

8月に過去の不採用銘柄をさかのぼって点検したとき、NEEは「検討して落とした」欄ではなく、どの欄にも名前がなかった。理由をつけて外したのではなく、候補表に載る前に消えていた。落とした記憶がない、という形の見落としである。これが一番たちが悪い。理由をつけて外した銘柄は、理由が崩れれば戻ってくる。最初から見ていない銘柄には、戻る道すらない。

だから今回、遅れて見る。

数字は、退屈なほど良い

7月24日に出た4〜6月期は、調整後EPSが1.15ドル。前年同期の1.05ドルから9.5%増え、市場予想(1.08〜1.11ドル)を上回った。上半期の調整後EPSは前年同期比9.8%増。GAAPベースの純利益は31.4億ドル、1株1.50ドル。一方で売上は75.3億ドルにとどまり、81.7億ドル前後という市場予想には8%近く届いていない。通期の調整後EPSガイダンスは3.92〜4.02ドルを据え置き、会社はレンジ上限を狙うと言っている。2032年まで年8%超のEPS成長という長期目標も維持された。

事業別に見る。規制側のFlorida Power & Lightは四半期で9万人超の顧客を増やし、6月末までの12カ月のROEは11.7%。2026年の設備投資計画は120〜130億ドル。そして大口需要の見通しを、2032年までに6GWから8GWへ引き上げた。非規制側のEnergy Resourcesは四半期で3.6GW(うち蓄電池2GW)を積み増し、受注残は約35.1GW。データセンター関連の案件は30件が協議中で、年末までに40件に増やすという。

株価は8月13日時点で86ドル前後、時価総額はおよそ1,790億ドル、PERは19倍台、配当利回りは2.8〜2.9%程度。52週高値98.75ドルからは13%ほど下にいる。

数字だけ並べれば、これは十分に良い会社だ。問題は数字ではない。

【規制された関所】という言葉の意味

FPLのROE 11.7%を、もう一度見る。これは市場が決めた利益率ではない。規制当局が「これくらいまでなら乗せてよい」と認めた利益率だ。電力会社は地域独占を認められる代わりに、通行料の上限を他人に決められている。関所であることと、通行料の額を自分で決められることは、まったく別の話である。

半導体側の関所――露光装置や設計ツール――は、値上げの是非を委員会に諮らない。NextEraは諮る。しかも今回、その審理に州知事が入ってきた。

スパンバーガー知事はワシントン・ポストへの寄稿で、州外の企業に州の基幹電力会社を売ることに「深く懐疑的だ」と書き、家計と小規模事業者の負担、州内の雇用、エネルギー政策の将来という三点を挙げた。介入といっても決定権を得るわけではない。当事者として質問を出し、NextEraとDominionに答弁を求め、最終判断に不服なら控訴の道を持つ、という立場だ。証人尋問は11月17日から。一般市民の意見聴取は11月5日、9日、10日。SCCは2027年1月半ばまでに結論を出す。

NextEra側は、株主負担でバージニアの顧客に17.8億ドル、三州合計で22.5億ドルの請求書クレジットを差し出している。この合併は「引き算ではなく足し算だ」とKetchum CEOは言った。クロージング予定は2027年下期、株主総会は9月初旬。

ここで起きていることを一言でいえば、通行料の水準が、公聴会と選挙のカレンダーと同じテーブルに載っている、ということだ。

抜け道としてのパデューカ

面白いのは、NextEra自身がそれを分かっているように動いていることだ。

7月29日、Brookfieldを中心とする連合が、エネルギー省のパデューカ跡地――1950年代に核兵器用ウランを濃縮するために造られ、2013年に閉鎖された西ケンタッキーの施設――に、1,000億ドルのAIデータセンター拠点を建設する計画を発表した。2032年の完成時で受電容量1.8GW、計算能力は1.2GW超。NextEraの役割は、この拠点専用に最大2GWのガス火力と最大2.6GWの蓄電池、合計4.6GWを建設し、保有することだ。費用は案件側が全額負担し、既存の家庭や小規模事業者の料金には転嫁しない設計になっている。

規制された料金表の外側に、自前の関所を建てる。既存顧客に負担を求めない設計は、政治的な摩擦を避ける工夫であると同時に、収益が規制ROEの上限ではなく相対の契約条件で決まるということでもある。ただし最終契約はまだ結ばれていない。ケンタッキー州公益事業委員会の承認も要る。1,000億ドルは、いまのところ投資ではなく計画だ。

それでも、今は買わない

見送る。理由は業績ではない。

このポートフォリオが電力に求めているのは、AIの計算需要が増えたぶんだけ、追加の資本を大きく使わずに受け取りが増える場所だ。Constellationは既存の原子力の出力を長期契約に載せ替える。NextEraは、受け取りを増やすために毎年120億ドル規模の設備を建て続ける。同じ電力でも、通行料の性質が違う。規模と安定性ではNextEraが上で、そこは率直に認める。それでも、限られた12の枠のひとつを渡す理由としては、まだ足りない。

そのうえで、判断が変わる条件を先に書いておく。10月下旬の7〜9月期決算で、FPLの大口需要見通しが8GWからさらに上振れするか。年内に予告されている大口契約の一件目が実際に締結されるか。パデューカが最終契約に到達するか。そしてSCCの審理で、合併条件にどこまで注文がつくか。この四つは、11月から1月にかけて順番に答えが出る。

私は答えを予想しない。11月17日、リッチモンドの証人尋問で、知事の代理人が最初の質問を読み上げる。規制された関所の通行料がどう決まるのかは、そこで見える。