SPCX スペースX|1000億ドルの宇宙港は誰の売上になるか
スペースXが発表した1000億ドルの宇宙港と、四半期183億ドルの設備投資が誰の売上に変わるのかを追った。エヌビディアが1億2276万株を持つ円環構造まで含めて、108ドルで見送った判断を再点検する。
湿地に1000億ドルが落ちる。だが金は消えない。必ず誰かの決算に載る。
ニューオーリンズから西へおよそ200マイル。バーミリオン郡パカン島の12万5000エーカーは、70年にわたってエクソンモービルが石油を掘り続けた土地だった。そこが宇宙港になる。スペースXが8月25日に発表した「スターベース・ルイジアナ」の投資額は1000億ドル、着工は2027年、最初の打ち上げは2029年を予定する。ルイジアナ州のランドリー知事は、この一件で州への新規投資が2500億ドルを超えたと述べた。
数字の規模に目が行く。ただ、投資家にとって意味があるのは規模ではない。1000億ドルがどこへ流れるか、である。
パカン島の12万5000エーカーに何が建つのか
完成時の構成は、発射施設5つ、各施設に2つの射点で計10射点。加えて推進剤の貯蔵農場と製造施設、発電設備、機体整備施設、深水港、そして従業員とその家族の住宅までが含まれる(フォーチュン、8月27日)。直接雇用は今後10年で3000人の見込みだ。
マスク氏はXで「最終的に12基以上の発射タワーを備え、1日30回以上の打ち上げを可能にする」と書いた。ここは分けて読んだほうがいい。発表資料に書かれているのは10射点であり、12基や1日30回は将来像として本人が語った数字だ。年1万回という数字も同様で、2029年の稼働時に想定されているのは年1000回超である。
立地の決め手のひとつが豊富な天然ガスへのアクセスだった、と州側は説明している。宇宙港と呼ぶより、自前の発電所を抱えた12万5000エーカーの工業団地と言ったほうが実態に近い。
その金は誰の売上になるか
1000億ドルは蒸発しない。掘削と埋め立て、鋼材、タービン、変圧器、配管、そして半導体。支払う側の帳簿では設備投資だが、受け取る側の帳簿では売上高になる。
スペースXは同時に、テキサス州バストロップに「ギガサット」工場を建てている。2027年後半からAI衛星を数千基つくる計画だ。衛星を数千基つくるということは、その分の設計ツールと半導体を数千基分買うということでもある。
ここで、この連載が銘柄を見るときの最初の問いに戻る。通行料を取る側にいるか、払う側にいるか。スペースXは明白に払う側だ。ただし「払う側だから駄目だ」という話ではない。どの企業も何かに払っている。問うべきは、払った額を上回る余りが生まれ、それが株主のところまで届くかどうかである。
エヌビディアが持つ1億2276万株の意味
8月14日、エヌビディアが13Fで開示した保有銘柄にスペースXが入っていた。1億2276万4805株、6月末時点で約209億8000万ドル。インテルに次ぐ2番目の規模で、開示された株式ポートフォリオの33%を占める(CNBC、MLQ)。
この株はもともと宇宙への賭けではない。エヌビディアが今年1月にxAIの200億ドル調達ラウンドへ100億ドルを投じ、そのxAIを2月にスペースXが買収したことで、持ち分がスペースX株に変わった。この買収時のxAI企業価値は1兆2500億ドルとされる。
そしてマスク氏はQ2の決算説明会で、AIデータセンターにはエヌビディアのチップのみを使うと述べた。GPUのアーキテクチャが訓練にも推論にも最良だから、というのが理由だ。来年はヴェラ・ルービンの相当量の割り当てを見込むとも語っている。計算能力は現在の2ギガワットから2027年末に10ギガワット近くまで引き上げる計画だ。
通行料を取る側が、払う側の大株主でもある。この円環をどう読むか。
公平を期すために書いておくと、13Fにも決算説明会の発言にも、この株式がチップ購入の対価だったと示す記述はない。取引文書は開示されていないし、そう決めつけるのは早い。それでも、エヌビディアの前四半期の営業外収益159億ドルの大半が投資評価益だったという事実は残る。チップを売った先の株価が、売った側の利益に跳ね返る構造が、少なくとも会計上はできあがっている。
四半期の設備投資183億ドルという数字
ルイジアナの1000億ドルは、すでに走っている支出の上に乗る。
8月4日発表のQ2決算は、売上78億1400万ドルで前年同期比92%増、市場予想の69億3000万ドルを上回った。純損失は5億4100万ドルで、前年同期の10億ドルから縮んでいる。調整後EBITDAは35億ドルと予想の75%増しだった。数字だけ見れば良い決算だ。
それでも株価は時間外で8%超下げた。理由は設備投資である。四半期183億7000万ドル、うちAI関連が158億3000万ドル。市場予想の132億2000万ドルを大きく超えた。上半期だけで285億ドルになる(モトリーフール、8月26日)。
四半期の売上が78億ドルで、同じ四半期の設備投資が183億ドル。売上の2.3倍を投じている。
収入側の材料もある。CFOのブレット・ジョンセン氏は年末までに年率換算1000億ドルの経常収益に達する見込みだと述べ、当四半期に入ってからクラウドサービスで67億ドルを追加受注したと明かした。グーグルが2026年10月から月9億2000万ドルを支払う契約も別途開示されている。社内予想では売上1兆ドルの到達時期を2031年から2030年へ前倒しした。
スターリンクのARPUはなぜ下がり続けるのか
Q2のスターリンク契約者は1200万人。前年から倍増している。同じ期間にARPU(契約者1人あたりの月間収入)は85ドルから66ドルへ下がった。前四半期比では横ばいだ。
打ち上げコストの垂直統合は本物の強みで、ここは疑う余地がない。だが契約者が倍増する局面で単価が3割落ちるのは、料金表を自分で書けていないことの表れでもある。強みは存在するのに、その果実が顧客側へ移っている。6月に月10ドルの端末レンタル料を導入しており、その効果はQ3から出はじめる。ここは次の決算で確かめる。
108ドルで見送った株が141ドルになった
正直に書く。今月上旬、この銘柄を見送った。当時の株価は108ドル前後だった。8月28日時点で140.87ドル、ひと月で3割上がっている(インベスティング・コム)。52週レンジは104.83ドルから225.64ドルで、アナリストの平均目標株価は219.22ドル。モルガン・スタンレーはルイジアナ発表後に「割安」と評価した。
見送りの根拠は「余りが生まれ、株主に届くか」だった。そして判断を変える条件を先に書いてある。AI部門の営業損失の縮小が3四半期以上続くこと。設備投資の伸び率が売上の伸び率を下回る四半期が現れること。Q2で前者は1回目が成立し、後者は成立しなかった。ルイジアナの発表は、後者をさらに遠ざけた。
条件に株価は入れていない。上がったから買う、下がったから売る、という判断を自分に許さないためだ。3割上げた事実は、条件を書き直す理由にならない。書き直すなら、条件の論理が間違っていたと示されたときだけである。
その代わり、外れる可能性も書いておく。もしスターシップが年1000回飛ぶ世界が来て、打ち上げ単価が今の常識の外まで落ちるなら、この見送りは10年後に「安かったのに買わなかった話」として残る。私はその可能性を否定していない。ただ、それが実現する世界では、1000億ドルの工事代金と158億ドルのチップ代を受け取った側もまた栄えている。
2029年に最初のスターシップがパカン島から上がるとき、その工事代金は、とうに誰かの決算に載っている。