TSMCの月次は過去最高、株価は横ばい。そのとき点滅していたのは別の数字だった
7月のTSMCの月次売上が出た。前年同月比44.7%増の4,675億8,000万台湾ドル。単月として過去最高で、前年同月比プラスは2024年1月以来31カ月連続だ。1〜7月の累計は2.87兆台湾ドル、前年同期比37%増。
それで株価はどうなったか。ほとんど動いていない。8月10日時点で421ドル前後、52週高値は479ドル。直近の終値は418ドル台で、7月16日の決算からずっと同じような場所にいる。
この「過去最高なのに無反応」を、私は材料視しない。株価は判断材料ではないからだ。このポートフォリオでTSMCを売るのは、事前に文章にした4つの売却条件のどれかが発火したときだけである。だから月次が出るたびに私が確認するのは、株価ではなくその4項目の実測値になる。
そして今回、正直に書いておくべきことが1つあった。売却条件①は、すでに一度点滅していた。
点滅していたのは「先端比率」
TSMCの売却条件①は「先端5nm以下の売上比率が2四半期連続で低下」。ファウンドリの関所性は、最先端ノードを実質独占していることに依存している。だから先端比率の後退は、株価より先に見るべき指標だと考えた。
実測値を並べる。ウェハー売上に占める比率だ。
- 2025年4Q:3nm 28%、5nm 35%(合計63%)、7nm以下は77%
- 2026年1Q:3nm 25%、5nm 36%(合計61%)、7nm以下は74%
- 2026年2Q:5nm 33%、3nm 30%、2nm 3%(合計66%)、7nm以下は77%
1Qで、63%から61%へ落ちている。1回目の低下だ。もしこれが2Qでもう一度落ちていれば、条件は「2四半期連続低下」を満たし、売却条件①は発火していた。実際には2Qで66%まで戻し、連続はそこで切れた。
戻した理由もはっきりしている。最先端の2nmの量産が本格化したことだ。1Qにゼロだった2nmが2Qで3%を占め、3nmが25%から30%へ動いた。1Qの低下は構造的な後退ではなく、次世代ノードが立ち上がる直前の谷だった、という読み方になる。
ただし──これは結果論として都合よく解釈しないよう気をつけたい。1Qの時点で私は「谷だから問題ない」と断定できたわけではない。条件が「2四半期連続」で設計されていたから、1回目では動かずに済んだ。それだけの話である。ルールを先に書いておくことの効用は、こういう場面でしか現れない。
粗利率が下がる、という良いニュース
売却条件②は「粗利率50%割れ」。2Qの粗利率は67.7%、会社予想の上限を0.2ポイント上回った。50%までは17ポイント以上の距離がある。ここは当面、警報が鳴る場所ではない。
むしろ注目すべきは、会社が自分から粗利率を下げにいっていることのほうだ。3Qのガイダンスは売上446〜458億ドルに対し、粗利率は65〜67%で中間値が1.7ポイント低下する。経営陣は2nmの立ち上げが2026年通年で粗利率を2〜3%希薄化し、海外工場の立ち上げによる希薄化は初期段階で2〜3%、後期には3〜4%に広がると説明している。
そして2026年の設備投資を600〜640億ドルへ引き上げ、アリゾナに1,000億ドルの追加投資。アリゾナへの累計投資額は2,650億ドルに達する。
利益率を数ポイント削ってでも、次の3年の生産能力を先に積む。関所であり続けるための支出だと考えれば、この減益方向は歓迎すべき種類のものだ。逆に言えば、粗利率が下がったこと自体を売却条件に据えていたら、私は最も重要な投資局面で誤って売っていたことになる。条件を「50%割れ」という低い水準に置いたのは、そういう理由だった。
残り2つと、次に見る日
売却条件③は「主要顧客の最先端品がSamsung/Intelへ本格移管」。2025年のファウンドリシェアはTSMCが69.9%、Samsungが7.2%(TrendForce)。移管の兆候は決算の数字に出ていない。
売却条件④は台湾有事で、これは発火すれば全面再評価になる。関連する動きとしては、TSMCがSonyと約2,820億円を投じる合弁で熊本にイメージセンサー工場を建設し、約40%を出資、2029年の商業生産を目指すという報道が出ている。地理的分散は着実に進んでいるが、これは有事リスクを消すものではなく、和らげるだけだ。
結論。4項目すべて非発火。①は1Qに一度点滅し、2Qで消えた。テーゼは無傷である。
だから私は何もしない。株価が過去最高の売上に反応しないことも、52週高値から12%下にいることも、売買の理由にならない。次に手を動かすのは8月26日、あらかじめ日付を固定してある2回目の分割エントリー(トランシェ)の実行日だ。そこでも私が確認するのは、売却条件が発火しているかどうかだけである。