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ARM

ARM アーム|目標株価180〜430ドルの分裂を読む

アームの目標株価は180ドルから430ドルまで開いている。自社チップ参入で料金所と競合という二つの顔を持った構造を分解し、11月4日の決算で確かめる三点を示す。

同じ会社に、同じ月に、180ドルと430ドルの値札が付いている。市場が値段を決められないのは、この会社が途中で商売を変えたからだ。

アーム・ホールディングスの直近株価は276ドル前後(8月中旬、Yahoo Finance)。52週の値幅は100.02ドルから452.70ドルで、この1年で株価は約58%上がっている(Investing.com、同時点)。6月の高値から7月にかけて199ドル近辺まで4割超下げ、8月に入って280ドル台を回復した。

そしてアナリストの目標株価は、下が180ドル、上が430ドル。7月末の決算後に、RBCは475ドルから340ドルへ引き下げ、モルガン・スタンレーは212ドルへ引き上げ、ニュー・ストリートは買い推奨に格上げした。同じ決算を見て、同じ会社について、真逆の方向へ動いている。

数字が悪いから割れているのではない

まず事実から。7月29日発表のFYE27第1四半期(6月末締め)は、売上12.89億ドルで前年比22%増。ロイヤリティ収入7.15億ドル(+22%)、ライセンス収入5.74億ドル(+23%)、非GAAP EPS 0.45ドル(+29%)で、いずれも第1四半期としての過去最高。非GAAP営業利益率は約41%、フリーキャッシュフローは6.65億ドル、直近12ヶ月で14億ドル。データセンター向けロイヤリティは前年比で2倍を超えた。前年度(2026年3月期)の売上は49.2億ドル・23%増で、2023年の上場以来3年連続の20%超成長にあたる。

数字は良い。割れているのは数字ではなく、この数字を何倍で買うべきかという前提のほうだ。前提は3月に書き換わった。

3月24日にアームが自分で作ったもの

アームは35年間、CPUの設計図を貸し、出荷された1個ごとに使用料を受け取る会社だった。スマートフォンの中身がどの半導体メーカーの製品になっても、料金所は動かない。誰が勝っても取りっぱぐれない位置にいる、という点で、これ以上ないほど分かりやすい商売だった。

2026年3月24日、その料金所が道路に自分の車を出した。Metaと共同開発した136コアのデータセンター向けプロセッサ「Arm AGI CPU」——社史上初の自社シリコンである。Neoverse V3コア、TSMCの3nmプロセス、消費電力300W。ローンチ時点でOpenAI、Cerebras、Cloudflare、SK Telecomが名を連ね、量産出荷は2026年第4四半期の予定だ。

顧客は誰か。アマゾン、グーグル、マイクロソフト、エヌビディア。つまり、アームのアーキテクチャをライセンスして自前のサーバー用チップを作っている、まさにその会社たちが、今度はデータセンターCPU市場でアームと同じ棚に並ぶ。

FTCが5月に見にきたのはどこか

米連邦取引委員会が反トラスト調査を開始したと報じられたのは5月15日(ブルームバーグ)。論点は明快で、ライセンスの品質を落としたり供与を拒んだりすることで、アームが自社チップを有利にできる立場にあるのではないか、というものだ。韓国の公正取引委員会は2025年11月にソウル事務所へ立ち入っている(クアルコムとの係争の流れ)。

調査そのものは症状であって、病名ではない。病名は、ライセンスの鍵を握る者が、その鍵を必要とする相手と同じ市場で商品を売っている、という構造にある。当局が動いていなくても、この構造は消えない。

20億ドルの受注は、強気材料なのか

AGI CPUの需要は、FYE27〜28で20億ドルを超えたと会社は説明している。3月のローンチ時点の10億ドルから、6週間で倍だ。会社は2031年3月期に売上約250億ドル(IP事業とシリコン事業の合計)という長期目標を掲げ、ロイヤリティは同期間に年率20%程度で伸びると置いている。強気の人が指すのは、この数字だ。

弱気の人が指すのも、この数字である。20億ドルが50億ドルになり100億ドルになるほど、料金所と通行者の利害は離れていく。アーム自身は、シリコン事業がIP事業を食うことはない、二つの流れは並走すると説明している。並走するかどうかは、ライセンシーの側が決める。

公平を期すために、強気側の根拠も書いておく。Neoverseコアの累計出荷は15億個を超え、直近の5億個はわずか9ヶ月で積み上がった。ハイパースケーラーのサーバーCPUがarm系へ寄っているのは事実であり、データセンターロイヤリティが1年で倍増したのはその結果だ。ここは意見ではなく観測である。

一つ、こちらの誤りを書いておく

8月の初めに、この会社は見送っている。理由は上に書いたとおり、中立性が構造的に壊れたと判断したからだ。

それなのに今月、持ち株の入替候補を洗い直したとき、私は真っ先にアームの名前を挙げかけた。出荷1個ごとに料金を受け取るという形の美しさに引っ張られたのだ。形は今も美しい。中身が3月に変わったのに、形だけを見て二週間前の結論を忘れかけた。二度目の判断は、一度目より甘くなる。これは覚えておくべき類の失敗だと思う。

11月4日に見る三つ

次の決算は11月4日(米国時間・引け後)。確かめるのは三点に絞る。

一つ、ロイヤリティとライセンスの伸びが鈍っていないか。会社は既に、通期のロイヤリティ成長見通しを約20%から10%台後半へ引き下げている(スマートフォンの弱含みとメモリ価格の上昇が理由)。第2四半期のガイダンスでは、ライセンスが約30%増と見込まれる一方、ロイヤリティの伸びは10%台前半まで落ちる想定だ。この差が何を意味するのかは、実績を見ないと決められない。

二つ、FTC調査の進展。ライセンス条件の中立性が制度として担保されるのなら、二重の顔の問題は片方が消える。

三つ、量産が始まるAGI CPUに対して、ライセンシー側の離反の兆候が出るかどうか。クアルコムは2025年12月にRISC-V設計のベンチャーを買収している。乗り換え先を用意する動きは、既に始まっている。

株価がここからさらに下がったとしても、それは判断を変える理由にならない。6月からの下げ幅は、それ自体では何も証明しない。証明するのは、通行料を払う側が来年もこの道を通り続けるかどうかだけだ。